安心して過ごせる「普通の家庭」 ほしいのは、ただそれだけだった


 どんな行動が、父の怒りに火をつけるかわからない。家族で過ごす時間は、いつも爆弾を抱えているようだった。
 父から母へのDVは、物心ついたときから日常だった。怒鳴る、物に当たる、無視をする。父が怒るきっかけは、嫌いなおかずが食卓に並んだとか、たったそれだけのことだ。私には決して暴力をふるわなかったし、ただの夫婦ゲンカのつもりだったのかもしれないけれど、常に父の機嫌を損ねないように振る舞って、ケンカが始まるたびに身を潜めていた私の気持ちを、ちょっとでも想像してくれたことはあったのかな。過呼吸を起こした日だってあったのに。
 耐えきれなくなった母が110番通報し、母と私は、母方の祖父母のもとへ避難することになった。子ども相談センターさんからは、「お子さんの目の前での夫婦喧嘩は、面前DVと言って心理的虐待にあたるんですよ」と両親に話があったらしい。おかげで父はこれまでのことを謝ってくれたけど、いまは正直父の謝罪を受け入れられるほど、心の折り合いがついていない。
 これから、私たち家族はどうなるんだろう。私の願いは、家で伸び伸びとリラックスして過ごすこと。「たかが夫婦ゲンカ」だなんて、ゼッタイに思わないでほしい。
 
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています。
 
 
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