あのときいったん離れる勇気が 持てたから、今この子の笑顔がある


 「母乳で育てなきゃいけないの?」「他の子と比べて、成長が遅れてる?」
 初めての育児に戸惑いながらも、県外から引っ越してきたわたしは、悩みを打ち明けられる相手を見つけられずにいた。主人に話したくても、仕事で帰りが遅く、夕飯を共に食べる時間もない。募る不安に食事は喉を通らなくなり、体重も減っていった。
 異変に気付いた主人の勧めもあり、あまりの辛さに耐えかねて、心療内科を受診。入院を告げられたが、わたししか子どもを世話できる人はいない。困っていると、子ども相談センターの人がやって来た。
 子どもを奪われてしまうんじゃないか。怯えていたわたしたちに、乳幼児ホームへの短期入所を提案してくれた。預かってもらうあいだ、何度か足を運ぶうちに、スタッフの方とは会話を交わす仲になった。
 もし、あのまま病院に行かず、誰にも相談できていなかったら、どうなっていただろう。より積極的に育児へ関わるようになった主人の姿を見るたび思う。「いつでもいらしてください」。退所するとき、「また遊びに来てもいいですか?」と尋ねたわたしを受け止めてくれた言葉が、いまも支えになっている。
 
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています。
 
 
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