近すぎてわからなかった 傷つけあわない程よい距離感


 僕の家は母子家庭だ。一人で家計を支えるために、余裕のない母。「学校行かないなら出ていけ」。そう強く言われれば言われるほど反発心が募り、いさかいは絶えなかった。僕だって、本当は学校に行きたかったし、精神的に不安定な母から離れて早く一人立ちしたかった。でも、どうにもならないんだって諦めていた。
 「里親さんのところで暮らしてみない?」
 子ども相談センターの人に誘われ、里親さんの家を見学したとき、この家での暮らしが正解なのかどうか、正直わからなかった。母と傷つけあってばかりの僕にとって、フツウの家庭が何なのかわからない。戸惑いは大きかったけれど、とにかくやってみようって思った。
 干渉してくるわけでもなく、見捨てられているわけでもない。そっと見守ってくれる里親さんのもとでの暮らしは心地よかった。おかげで高校の単位取得すら危なかった状態から、勉強に集中できるようになり、やがては大学進学を目指すように。いまは無事大学へ合格して、念願だった一人暮らしで大学生活を送っている。
 里親さんからは定期的に連絡が入り、母とも適度な距離感を保って交流できている。不安はもちろんあるけれど、「将来は何をしよう」って悩めることがとてもうれしい。
 
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています。
 
 
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