越えられない母子の国境 距離を置いて初めて思い合えるように


「しつけ」か「暴力」か
母との認識の違い

 母が籍を置く国では、ハンガーやホウキで叩いてしつけるのが常だそうだ。けれど、日本で生まれ育った私の友人に、日常的にそんなことをされている子はいない。「友達と遊んでいた」「妹の世話を怠った」……なぜそんな理由で長時間に渡って叩かれなければならないのか、中学生の私には理解ができなかった。
 ある日ふと「こうやって一生叩かれ続けるのか」と絶望的になり、「私はそんなにひどい子どもなのか」と自分を責めた。気が付いたら、私は自分を切りつけていた。
 それからのことはあまり覚えていないけれど、子ども相談センターの人が、渋る母を説得し、手続きを進めてくれたようだ。私は児童養護施設に入所した。
 叩かれることも、自分を傷つけることもない穏やかな日々の中で、言葉の通じない異国で頑張る母のことを、ほんの少しだけ、理解できたような気がする。母にとっての異国は私の故郷。言葉や文化の壁が、母子の間にも立ちはだかったのだ。
 一緒に暮らすことはもうないかもしれないけど、時折届く手紙はやっぱりうれしいし、母や妹が元気でいるか、気にもなる。親子の絆は切れないんだと、実感している。
 
※取材した実例をもとに一部フィクションを加えています。
 
 
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